千年企業研究会

2017
2016
バックナンバー
第66回

個別の労働紛争について(2)

■或るサラリーマンの話『逆転人生』

 先日の日曜日、何とはなしにテレビを見ておりましたら、40億円もの借金を背負ったサラリーマンが16年間で借金を完済したという物語が放送されていました。
 私が殊の外惹かれたのは「サラリーマン」という言葉と40億円もの巨額の借金を16年間で完済したというところでした。
 物語は或るビール会社に勤務するサラリーマンの父親が心臓病で亡くなった所から始まります。主人公の父親は居酒屋のチェーン店を経営していたものの、40億円もの借金がありました。主人公はビール会社のエリートサラリーマンとして、順風満帆な生活を送っておりましたが、父親が突然亡くなってしまった事から、人生が大きく変わっていきます。母親も存命でしたが高齢だったうえ、取引銀行の支店長からの圧力等もあり、否応なく主人公が居酒屋チェーンを継がなければなりませんでした。
 主人公は、居酒屋チェーンを継いでから直ちにビール会社時代の経験を活かし、大規模なコストカットに取り組みました。赤字店舗の閉鎖はもちろん、従業員の削減等を実施する事で、一時的には相応の成果を上げる事が出来た様です。
 しかしその後、主人公は大きな挫折を味わう事になります。経費削減を進めるあまり、限界以上に人を少なくした事等で、厨房の人数が足らずに食中毒を起こしたり、火を扱っていた社員が他の仕事をしなければならず、コンロから離れた事で店舗が火事になったりしました。このままでは駄目だと反省した主人公は経営コンサルタントにアドバイスを求めました。するとコンサルタントからは「従業員を大切にするように」という提案がありました。そんな事だけで大丈夫なのかという思いを抱きながらも主人公は「従業員を大切にする思想」を自らに植え込みました。
 従業員を大切にする一方で、借金に関しても金融機関に対し、元本返済額を軽減して貰う様に交渉し、それにより捻出した資金を設備投資や従業員の教育に使うようにしました。更に主人公は休暇取得や労働時間の短縮等、労働法に関わる内容をコンサルタントから学び、実践しました。労働法は従業員の為だけでなく、経営者の為のものでもあるということを学びました。そうした事を続けるうちに従業員が生き生きと働くようになり、新メニューの開発など新しいアイディアがどんどん出てくるようになりました。その結果、業績が拡大し返済額を増やす事が出来る様になり16年後に見事に完済する事が出来た訳です。
 テレビ番組ですから、多少の脚色もあるのでしょうが、この番組を見て私の考えが間違っていないという事を再認識しました。それは従業員を大切にする事が企業経営の根幹だということです。企業経営は利益や売上を出す事が目的ではなく、従業員を大切にするのが何より重要ということです。もちろん、利益や売上も大事ですが、従業員を大切にした結果でなければなりません。この事は私が福神商事を始め、色々な企業を見てきたからこそ判った事です。どうか、従業員を大切にするという事を肝に銘じて頂きたいと思います。

■個別の労働紛争について:残業手当について(前回の続き)

 これまで労働紛争に関して、賃金や休暇、残業など色々な話をしてきましたが、前回の続きで残業問題の話からしたいと思います。
(1)固定残業
 固定残業というものがあります。これは固定残業が月に30時間あれば30時間分先に払うという制度になります。月30時間だと1日平均1.5時間になりますが、例えばある人が1日3時間残業をしていたとすると月間合計では60時間になり、固定残業(30時間)を超えた分の残業代(30時間分)を払わなければならなくなります。
(2)年俸制
 年俸制とは1年間の給料を予め決めておくものですが、年俸制を導入したからといって、残業代を払わないという事は出来ません。当然、月給制にしようと日給制にしようと残業代は発生します。賃金体系がどうであれ、決められた労働時間を超えたものに関しては残業代を支払うことになります。
 因みに管理職の場合、原則として残業代は発生しません。管理職とは経営側の立場の人間を指し、例えば役員や部長、支店長等がこれにあたります。ただし、管理職であっても、深夜残業(22時~5時)をした場合には残業代が発生します。
 ところで、この中で注意して頂きたいのが「名ばかり管理職問題」になります。支店長や役員等、管理職に認定されていても管理職とされるかどうかは自分で出退勤が判断出来るかどうか、年収が一定水準以上あるかどうかによります。
 前回、会社の従業員全員を取締役にした会社の話をしましたが、取締役に任命されたとしても、年収が少なかったり、自分の判断で出退勤ができないと管理職とは認められません。あくまでも個人的な意見ですが、年収が1,000万円程度あり、自分で出退勤が判断出来るのであれば、管理職と認められると思います。好きな時間に来て、好きな時間に帰り、人事権等の裁量権が少なからず移譲されていれば管理職と言えます。年収に関し、私の感覚では、最低800万円、せいぜい譲っても700万円位ないと管理職と言えないと思います。
 今white collar exemptionという管理職でなくても特定の企画や研究業務で結果が求められる業務をする人間である程度年収がある人間に関しては残業代を払わなくていいという制度の議論がされています。頭脳職である企画職や研究職は結果が重要な為です。今の議論だと年収が1,080万円以上になるそうです。前回お話をしましたが、内閣と労働組合の会長が密約したことがばれて連合の総本部に赤旗を立てられるという前代未聞の話がありました。この話で密約したのが1,080万円だったと記憶しています。私の意見ですがwhite collar exemptionから考えますと1,080万円以上貰っていて管理職に任命された方は「名ばかり管理職」と認められないと思います。
 年俸制だからと言って残業代を支払わないということは出来ません。私の考えではそもそも年俸制というのは、300万円や400万円ではなく、ある程度の金額を貰っている方の制度だと思います。年俸制は野球選手の様に、例えば5,000万円位貰っている方の話だと思います。通常は月給日給制にすべきだと思います。900万円や1000万円貰っている方で前年度成果が出たので1100万円にするとかそういう世界の話だと思います。年俸制は年々上がらない制度なので通常は基本給が年々上がるベースアップの日給や月給制にすべきだと思います。何れにしても、年俸制でも残業代が発生しないということは間違いという事を覚えておいて頂きたいと思います。

■残業をなくすためにはどうしたらいいか

 個別の話は終わりましたが、残業をなくす為にどうしたらいいかという話をしたいと思います。残業をどうやってなくすか私には判りませんが、残業をなくした人は判っています。一人はT経営研究所のS社長であり、もう一人は前回お話ししたO社のI社長です。I社長はO社に入ってから一度も残業した事がなかった訳ですが、M会長はこの人を躊躇なく社長にしました。本当に凄い事だと思います。このI社長の話とS社長の話をなんとか研究して、ノウハウを吸収出来ないかと思い、今回話をさせて頂きます。
 S社長は家庭の事情(長男が自閉症、奥さんが鬱病)から残業をした事がなく、家庭の主夫をこなしながらT社に勤務していました。この方はT社本体の課長になってから完全に残業が出来なくなった訳ですが、やがて取締役になり、最終的にT経営研究所の社長になりました。家庭の事情もあって、自分自身が残業が出来なくなった為、部下にも残業をさせないようにしました。そして残業をさせないことで有名になりました。S社長の出している本がありましたので、「時間管理のための9カ条」を纏めてみました。
①「大事なのはスキルではなく志を持つこと。どう働きたいのか、あるいはどう生きたいのか、その志さえあれば、スキルは後から自然とついてきます。」
 Sさんは、残業をなくす為には志が重要でスキルは後からついてくると言っています。またワークライフバランス(働く事と生活、家庭の安定、家庭の充実)が重要でありこれを度外視して働く事だけでは何の為の人生なのかという話になってしまいます。こうした事を踏まえれば、時間内で終わるのは当たり前であり、余った時間は家族や他の時間に使う事が大切です。これがSさんの哲学であり、他の項目も言葉を変えているだけで同じようなことを言っています。
②「この仕事をやるべきか?を考え、優先順位をつける時間が必要。少し早めに出社して一人で考える時間を作るといった良い習慣を身につけるべきです。」
 優先順位をつけるというのはどうでもいい項目は後回しにするという事です。例えば、仕事に1から10まで優先順位をつけたら、今日5番目までしか出来なくても帰るという事で、要はメリハリだと思います。
③「部下の仕事をきちんと見ていれば、ムダは削れる。最近は自分の仕事で手いっぱいと いう管理職が増えていますが、上司はもっと部下の仕事に手を突っ込むべきです。」
 部下の仕事が遅いというのは上司が悪いという事です。どれが無駄かどれをやらなくていいかも突っ込んで仕事をすることが重要です。
④「仕事を効率化するための両輪は、コミュニケーションと信頼関係です。」
⑤「私がリーダーとして着任した部署のほとんどで残業がなくなりました。それは私が部下の仕事に手を突っ込み、全員がきちんと結果を出せるように管理したからです。」
⑥「会社の仕事はチームで進めるものなので、情報はできるだけ共有化し、業務の効率化につなげるべきでしょう。課内のコミュニケーションが円滑だと、課長が間違えそうになると、部下が注意してくれますし、悪い情報も早く伝わってきます。」
 情報の共有化は大事だと思います。ここで言えることは部下が残業するかどうかは部長や課長の力量が重要で上司が部下の仕事まで首を突っ込んで的確で明瞭な具体的な指示を送れば残業がなくなると思います。ただやれというのではなく目的を具体的に明示すれば部下も考えるようになり、結果的に課内の残業がなくなることになります。
⑦「段取りのコツは仕事の整理、言い換えれば見える化です。会社にはやたらと多くの仕事がありますが、その8割は定型仕事で、そのすべてを完全にやっていたのでは時間がいくらあっても足りません。本当に重要な仕事は2割です。これをきちんとやれば、その人の抱える仕事のほとんどは達成できてしまいます。」
 部下を抱えている人たちは「見える化」をして段取りをすべきだと思います。雑用も大事ですが、仕事というのは私は雑用の塊だと考えています。仕事は雑用の塊なので17時に帰れない訳がありません。本当に重要な仕事は2割しかないという考え方で見れば「見える化」をして効率を良くすれば残業しなくても良くなる筈です。
⑧「毎日、時間効率を考えている人間と、何も考えないでダラダラと深夜まで会社にいる人間では勝負になりません。10年もたてば、ものすごい差になって表れてきます。」
 何を言いたいのかというと時間効率を絶えず考えることが重要だということだと思います。
⑨「仕事の時間を効率的に使いたいと思うのなら、何よりも、その気持ちを強く持つことです。私は志と言っていますが、そういう人は自分で工夫をします。本を読んで真似しようと思っても駄目です。それは、にわか勉強でしかありません。普段からの習慣づけが大切です。」
 最初に言ったことに戻りますが信念が重要だと思います。本を読んで学んでも駄目だということです。仕事は千差万別で全部違いますが突き詰めていくとみんな同じ事で悩んでいます。同じ事で残業になっています。その中でS社長やI社長が残業をなくしたというのは凄い事だと思います。みんなが17時に帰るという罪悪感を払拭して協力する事が重要です。日本人の気質として、隣の人がいい顔をしないと帰り難かったりしますが、気にならない風土が大切です。
 この前、新聞だったか、本だったかは忘れましたが、国毎の有給休暇の消化率が記載された記事がありました。それによると、ブラジルとフランスは有給休暇の消化率が100%でした。日本は先進国70~80カ国中最下位で、消化率50%でした。有給休暇は1年で20日ありますが、私は古い人間ですので、50年間で病気以外に取った事がありません。大事なのは病気した時の安全弁でとるのではなく、積極的に休暇を取ることであり、そうした職場環境を作るのが大切だと思います。私は休暇申請の稟議書で否決にした事はありません。どうか、有給休暇を堂々と取ってもらいたいと思います。先述した様に日本は有給の消化率で最下位ですが、その次が韓国になります。アメリカも7割位の消化率ですが、同国では1年間で取得出来る有給休暇は15日程度なので、消化率が7割だと10日位になると思います。日本は20日間の50%なので消化日数は10日位という事で同じ位になります。何れにしても先進国の中で有給休暇の消化率が最下位という事を自覚しなければならないと思います。
 私は考えが古い人間ですが、その事をしっかりと自覚しています。皆さんが有給について古い考えだと、若い人達は新しい考えを持っているのでギャップが出て来ると思います。皆さん方は残業について、是非新しい考えを持って頂きたいと思います。

 残業の話がこれでようやく終わりましたので来月からはセクハラ問題、採用退職問題、集団的労使関係に入りたいと思います。これらの話をしながら経営者や管理職としての考え方を学んでいただきたいと思います。

2017年10月 開催

ページの先頭へ