千年企業研究会

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第69回

「私の社長論」と労使関係について

■M商事社長:K氏の「私の社長論」について

 皆さんもご承知の様に、M商事は日本一の商社です。更にアメリカ等の大きな国には総合商社といったものが殆どなく、商社の世界ランキングにおいて、日本の商社が上位を独占しておりますので、日本一という事は実質、世界一の商社であるという事です。その世界一の商社の社長であるKさんの社長論を拝見し、非常に参考になると思いましたので、少しお話をさせて頂きたいと思います。
 ところで、改めてM商事が凄いなと思ったのは連結対象となっている子会社と関連会社だけで1200社程あるという事です。連結対象となっていない孫会社等を含めるとどの位あるか判らない程の大企業の社長であるK氏の考える「社長論」とはどういうものなのか考えていきたいと思います。
(1) 「会社とは経営人材(社長・役員)を育てる場である。経営人材を育てることこそ、会社のすべてだと言っても過言ではない。」
※M商事㈱のKさんは社長としての自分の役割は経営人材を育てる場だと言っています。ここまで言い切るのは本当に凄いなと思いました。
(2)「経営人材(社長・役員)をどのように育てるのか。基本はOJTである。OJTを補完するプログラムとして会計論・労働法・会社法等の基礎プログラムがある。」
※経営人材を育てるには、日々の社長の言動、行いを見せるOJTが全てだと言っています。その他に補完するプログラムとして、千年企業研究会でも扱っている会計論・労働法・会社法等の基礎プログラムがある様です。社長を育てるのに知識的なものも当然必要ですが基本はOJTという事。
(3)「社長は自分がいい加減なことをすれば社員もそうなる。数字をあげるだけでなく、その会社の人と同じ目線でチャレンジし、事業をよくする姿勢がなければならない。」
※社員は社長の姿を見て育っていく。これもOJT。
(4)「社長は自らの倫理観を常に問われる存在である。」
※福神商事㈱の大鷲名誉会長は、常日頃「社長に一番必要なのは倫理観だ。」と言っておりますが、Kさんも全く同じ事を言っています。倫理観というのは人が持つ善悪、モラルの判断基準だと思いますが、特に重要な事はお金の価値観や常識、礼儀等であり、非常に大事な事だと思います。
 何度も言いますが、社長は倫理観が一番大事です。とりわけ金銭面のモラルが重要です。社長になれば、金銭面は比較的自由になります。だからこそ社長になったら無駄な経費はビタ一文使わないという姿勢が不可欠です。
(5)「社長は知的水準も大事だが、本当に大切なのは情熱と誠実さである。」
※千年企業研究会を続ける中で、講義に入る前に「社長たるべきは」という話を常にしていますが、こうした内容の方が知識より余程大事だと思います。
(6)「社長になる人材は本質を見抜く力が必要である。」
(7)「仕事は人のため、世のためをモットーにすべし。」
(8)「社長(リーダー)の条件とは尊敬に値するかどうかである。」
(9)「社長はトップダウンとチームプレーの両立が図れる人である。」
※社長はチームプレーの精神も重要ですが、時にはトップダウンも必要。仲良しクラブではないのですから、トップダウンで厳命する事が出来なければ駄目です。
 Kさんの考える社長論は以上の様なものですが、共感出来ることが多く、流石だなと思いました。皆様には是非、今後の参考にして頂きたいと思います。

■整理解雇

 個別的労使関係の話をずっとしてきましたが、個別的労使関係で拗れると色々と問題になります。紛争となる原因には、賃金や休暇、退職等があります。退職の中には、普通退職の他に解雇があり、更に普通解雇と懲戒解雇に分かれます。普通解雇は一般的な解雇であり、懲戒解雇は悪い事をした人の解雇。管理責任を問う懲罰規定もあるといった話で、前回迄の講義は終わっています。今回は最後の整理解雇の話をしたいと思います。
 整理解雇等と言うと、倒産する間際の会社のケースなので、訴えられることはないのではないかと思いがちですが、そんな事はありません。私は整理解雇のトラブルも経験しました。いつか社長になった時の為に整理解雇には幾つかの要件があることを頭の中に入れておいて下さい。
 整理解雇は倒産するから解雇するのではなく、業績不振の場合には出来ます。企業が事業を続けていけないと思ったら、首を切る事が出来ます。では何時でも首が切れるかというと、4つの要件をクリアする必要があります。
(1)人員整理の必要性
 業績が良い時に更なる飛躍を目指して経費の削減を考え、人員整理をしたいといったケースは許されるかというと難しいと思います。将来、業界が悪化するので今首を切らなければ駄目だという場合でも客観性と合理性がなければ認められません。極端な話をすれば、30年後に業績が悪化するので今、首を切れるかというと、当然ながら許されません。基本的には3期以上赤字が続いた1期後に該当するのではないかと思います。赤字が何期も続けば、結果として倒産の最大の原因である債務超過に陥る事が多く、客観的に判断しても、「これは危ない。」と判断する事が出来るからです。仮に解雇した社員から労働基準局に駆け込まれて、裁判になった場合、裁判所は大抵労働者の味方となるケースが多いものの、3期も4期も赤字が続いているのであれば容認してくれる可能性が大きいと思います。
 私の経験でも、当時、特殊分野の開発を目指していた10人位のグループが在籍していたのですが余程困難な課題だったのか、10年経っても開発出来なかった事から、社長が突然怒り出して、全員解雇してしまいました。当然、彼らは裁判で訴えてくるものと思っておりましたが、意外にも町の労働組合に駆け込みました。その後、人事担当の顧問であった私が、否応なく相手と交渉する事になった訳ですが、結果的に退職金を殆ど規定通りに支払う事になりました。業績の良い企業は余程の事がない限り解雇は難しいという事です。
(2)解雇努力義務
 解雇努力義務とはどのような事かというと、「業績不振で人員整理をする。」という場合には、役員報酬の削減はもちろん、従業員給与の削減、経費の削減、配置転換、希望退職、新規採用の抑制といった解雇を回避する為の努力が必要という事です。
(3)人選の合理性
 首を切る順序も大事です。あいつが気に食わないから首を切るという事は許されません。最初はパートやアルバイトが先になります。元々、パートやアルバイトはそういう場合のバッファー的な要素があります。正社員はこういう要素がないので守られています。したがって、人件費が少なくて済むからと言って、パートやアルバイトを残して、楯突く正社員の首を切るのは合理性がありません。また人事評価の高い人の首を切って、低い人を残す事も出来ません。整合性があることが大事です。
 そして絶対にやってはいけないことがあります。それは「国籍」、「性別」、「労災中」、「産前産後」、「労組員」・・・こういう人を首にすると一発で裁判沙汰になります。アフリカの僻地から来た人だから優秀でもあいつから首を切ろうとか、優秀でも黒人だから首を切ろうとかは絶対に許されません。女性だから首を切ろうとかも駄目です。会社の仕事中に事故にあい労災中になっている人も首は切れないのです。また産前産後で気に入らないと言っても首は切れないです。これは良い悪いではなく労働基準法に明記されています。組合に入っている人と入っていない人がいた場合に、入っている人の首を優先的に切ることも許されません。
(4)手続きの妥当性
 人員整理をする時には組合がある場合は組合との協議が必要です。経営者が組合に提案する必要があります。組合も生きていく為に最終的に飲まざるを得ないのですが、誰から首を切るかという時に採用をストップして下さいとか、出向をさせて貰えないかとか、他部署で働かせて貰えないかといった話し合いをします。今までの要件を満たすように話しあって最終的にこういう手順でやっていきますと言って正式な手続きを取る必要があります。
 組合がない場合、従業員の代表者を選んで、話し合いをする必要があります。こういう時にきちっと手続きを踏んで話し合うことが大事になります。企業を救う為にはこうした手続きを踏んで整理をすれば泣きつかれても仕方がなく、裁判所も納得してくれます。全然何にもしないで整理解雇だというと問題になってしまいます。
 これで個別の労使関係は終わりになります。次は集団的労使関係に入ろうと思います。

■集団的労使関係

 集団的労使関係に関するトラブルの話をしようと思います。個別労使関係については、3ヵ月も4カ月も掛かってしまいましたが、集団的労使関係は直ぐに終わります。何故なら、福神商事㈱には組合が無いので、余り意味がないからです・・。したがって、集団的労使関係については一般論の話に終始します。
 個別的労使関係は労働基準法が準拠法でした。一方、集団的労使関係の準拠法は労働組合法と労働関係調整法の2つが準拠法になりますので、この法律に基づいて講義を進めていきます。
 今ではかつてほど重要性がなくなってきているのですが集団的労使関係で三公社五現業が存在していた時代はストライキが頻繁に行われていました。原因は集団的労使関係が拗れ、賃上げ要求の為のストライキだったのですが、こういう事をされると本当に困るので、この事を解決するために労働委員会というようなものを作って斡旋調整仲裁を行うのですが、それでも決着がつかない場合にストライキが行われた訳です。今はどうなったのかというと、これらの組織は民営化されたので、殆どの民間企業が話し合いにより解決をしていますし、ストライキをやっても意味がないのでやらなくなりました。学校の教科書として三公社五現業、労働委員会、斡旋仲裁調停など学ぶ事は必要だと思いますが、実際の社会ではそのような事はなく普通の労使交渉で済みます。
 次回は集団的労使関係から入って個別企業の労働組合との対処の仕方を学んでその次に進んでいきたいと思います。

2018年1月 開催

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