千年企業研究会

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第70回

T氏に学ぶ

■社長には何が必要か?

 私の講義は概ね小一時間、50分位で纏める様にしておりますが、基本的に前半は皆さんが経営者や役員になる為には何が必要かをお話しさせて頂き、その後、レジュメ等に基づき、様々な講義(ここ暫くは労働法)を進める様にしております。今日も前半は心構え的な話をしたいと思います。
 今日は改めて社長や経営者、役員になるとはどのような事なのか、どういった心構えを持つべきなのかを話していきたいと思います。
  「会社は絶対に潰さない。」
  「潰さないのは当たり前で絶対に引き受けた時よりも発展させる。」
  「発展させる為には利益を上げる。」
  「利益を上げる為に売上を上げる。」
  「売上を上げる為にその企業の持っている組織力を発揮させる。」
  一人の力ではなく、組織の力でその企業を動かす。その事が生産性を高めます。そうした認識を忘れてはいけません。その為には経営者としての経験を積む必要があります。
  組織を管理する為には、今学んでいる労務管理が必要になります。どこの本にも書いてありますし、誰が言っても、表現は違うにしても、社長になったらどのような事が必要かと言われた場合、同じ事を言っているはずです。経営者として力を発揮する為にはどのようにすれば良いのか、学ぶ事が幅広い知識となります。
 本日お話しさせて頂くT氏の話も、きっと役に立つものと思います。

■T氏に学ぶ

(1) T氏はテレビのコメンテーター等もしておりますので、ご存じない方はいらっしゃらないのではないかと思いますが、T大学の学長であり、以前はM社の戦略研究所の社長をしていました。W大学を卒業後、M社に入られ、どちらかというと実務畑というよりは戦略研究所で長くキャリアを積みました。説得力のあるコメントをするという事で、大変人気があり素晴らしい方なのですが、たまたま企業経営者向けの「世界は今」という講演会を聞く機会がありました。新聞をよく読んでいる方であれば、既に把握している内容であり、私もそれ程目新しい話を聞いたという認識はありません。ただ「問題点の整理」という点では非常に参考になりました。良い機会なので、世界が今どのような情勢なのか、皆さんにもお話しをしたいと思います。
 2018年の世界経済はどうなるのか?今年も既に2ヶ月近く経とうとしていますが、IMFは今年も順調で拡大傾向が続くとの見通しを出しています。その理由は米国と中国の経済が順調であるからであり、今予測されている世界全体の成長率は3.7%となっています。
国別に見ていくと、米国の成長率は2.3%。この数字はIMFがスタッフを派遣して調べた予測数字です。なお、米国の数字はその後、上方修正をしています。上方修正の理由は法人税率を40%から20%に下げた事によるものです。この効果を加味すると、成長率は2.8%~2.9%程度になるだろうと言われています。経済規模が極めて大きなアメリカが2%以上経済成長するという事は大変な事です。GDPが1500兆円を超えていますので、0.5%増えるという事はそれだけで7兆5000億円増えるという事です。2兆円や3兆円のGDPの国家が10%増えてもたかが知れていますが、米国の様な規模になると桁違いになる訳です。
 ユーロ圏の成長率はイギリスを除くヨーロッパの国々の平均値になりますが1.9%。これもEU参加国のGDPを全て足すと1000兆円近くになりますので、かなりの影響力となります。
 イギリスの成長率は1.5%。イギリスはご存じの様にEU離脱をしようとしている訳ですが、そういう最中に単体で1.5%という数字はまずまずの貢献度と言えます。
 そして日本ですが、0.7%という数字が出ています。日本経済は順調になりつつあると言われているものの、今年度の成長率は0.7%に過ぎず、他の国々と比べ、大きく見劣りしています。
 中国の成長率は6.5%。かつて中国の成長率は10%を超えていました。また、「保八」(8%の成長率を維持する事)と言って、国民を鼓舞してきました。米国に追いつき、追い越す為には、8%の成長率が不可欠と考えていたからです。さすがに今では「保八」の旗を降ろしていますが、それでも今年の見通しは6.5%という高い数字です。中国の経済規模は1000兆円を超えていますから、大変な金額になります。日本を追い抜いてから10年も経っていないのに、日本の500~600兆円の倍近くの規模になってしまいました。
 インドの成長率は7.4%。インドはこれから注目を集める事になると思います。ご承知の通り、インドは近い将来、人口で中国を抜いて世界一になります。今は貧困の格差が酷く、カースト制も残っており、封建的な部分がありますが、潜在的なパワーは目を見張るものがあり、影響力が大きくなっていく事は間違いありません。
 ASEANは日本や韓国、中国を除いた東南アジアの国々を纏めた数字になりますが、5.2%という成長率を予想しています。これは今後非常に注目していいと思います。
 それからブラジル、次のロシアもそうですが、BRICsと言われ、世界経済を牽引する事になるとされていた4ヶ国、ブラジル、ロシア、インド、チャイナ(中国)ですが、二極化の様相を呈してきました。先程お話しした様にI(インド)とC(中国)の2国は、世界の経済成長に多大な影響力をもたらす事は間違いありませんが、B(ブラジル)とR(ロシア)の2国はそれ程ではなくなってきています。そうは言っても、成長率は1.5や1.6%ですから、日本と比べるとまだマシであり、あまり他所の事を「大したことがない。」等と言える立場ではありません。
 確実に言える事は、日本はみんな頑張って働いているものの、成長率から見れば、0.7%程度に過ぎないという事です。何故、日本は伸びないのかというとバブルが弾けて経済崩壊があり、その後20年間成長率が低迷した事で、日本人そのものが自信を失ってしまったのかもしれません。現在はマイナス成長からプラス成長になりました。過去から比べたらアベノミクスなどで頑張っています。5年前や10年前から比べたら、かなり頑張っていると思いますが、それでも成長率は0.7%に過ぎないのです。
 これは労働人口が減ってきているのが大きな原因です。総人口もピークだった1億2800万人から、毎年減り続けています。総人口が下がれば、当然、労働人口(15歳以上で働く能力と意思を有する者)も減っていきます。総人口が多少減っても労働人口は減らさないようにしなければなりません。その対策を日本人、日本政府、日本経済界はしなくてはなりません。
 1つ目のポイントは女性の活用です。男性はもちろんですが、何としても女性の労働力を取り入れなければなりません。世界の趨勢は既に男性も女性もありません。日本もそうなりつつあると言ってもまだまだ格差があります。女性の労働力を生かし切っていない証拠です。これから女性の労働力はますます期待される様になってきます。これを無視して、旧態依然とした取り組みを続けていたら、メタメタになってしまいます。
 2つ目のポイントは高齢者です。現在、サラリーマンの定年は60歳ですが、その後5年間の雇用義務がありますので、実質的には65歳と言っていいと思います。しかしながら、こんなに勿体ない話は無いと思います。私はもう少しで75歳になりますが、以前は75歳迄働くつもり等、毛頭ありませんでした。現在74歳ですが、自分が学校を卒業し、就職した当時のレベルと比べても、全く頭は衰えていないと思います。私は皆様に助けて頂いて働いていますが、大学の同期で働いている人は誰一人いません。皆、萎れた老人になってしまっています。本当に勿体ないと思います。中には優れた語学力を持っていたり、特許を持っている者もいます。そんな技術を持っているのであれば、仕事をしてはどうかと投げ掛けてもても、シュンとなってしまうばかりです。何れにしても、労働人口を維持していく為には、高齢者を活かさなければならないと思います。
 3つ目のポイントは外国人の活用です。これもT建設の役員にまで上り詰めた友人の話ですが、外国人を使っては駄目だと言っていました。外国人の雇用には否定的でした。しかしながら、今の日本経済そのものから見たら、外国人を差別しては駄目です。飲食店等は外国人を差別していたら、経営は成り立ちません。中国人や東南アジアから来た人達がカタコトながら、本当に頑張ってくれています。日本の経済を支えてくれている人達に対し、人種差別的な事をしては絶対に駄目です。
 日本の0.7%という成長率を踏まえ、最低限の自覚として女性、高齢者、外国人の3つをどう取り入れるかを真剣に考えなければならないと思います。
(2)次に日本の貿易の相手国の変化(シェアー)の話をしたいと思います。
 1990年当時、米国は3割近いシェア―を占めていました。しかし2017年には12.6%と、半分以下になってしまってきています。
 大中華圏(中国、台湾、香港)を見ると、27年前は13.7%であったのに対し、2017年には26.1%と倍増しています。27年前の米国の立場と中国の立場が完全に逆転しています。日本にとって、27年前は米国が一番影響力があったものの、今は中国になっています。中国が好きだとか、米国が好きだとかに関係なく、中国との貿易はここまで来てしまっています。したがって、中国を嫌いだとか、蔑ろにするとかそんな事言っていられないのです。政治的には数年前に比べると、だいぶ良くなってきましたが相変わらずギクシャクしています。しかし経済的な面から言えば、そんな事を言っていられる様な状況にないという事を自覚しなければならないと思います。
 次のアジアですが、アジア全体から中国(大中華圏)を除いた数字になります。所謂、ASEANという捉え方で良いと思います。1990年当時、30%だったシェアー率が2017年には43.1%と大幅に増加しています。これをどういう風に捉えるかというと、これからはアジアの時代になるという事です。中国とアジアを加えると、実に7割を占める事になります。そういう意味では、これからは英語を勉強するよりも中国語や韓国語、更には他のアジアの言語を学んだ方が余程役に立つ可能性があります。我々自身は海外の輸出入には関わっていませんが、世界の潮流がアジアの時代になってきているという事をしっかり認識しておいて頂きたいと思います。
 次の中東ですが、かつて石油の輸入は中東が中心でしたので、7.5%を占めていましたが、現在は相手先も増え、中東のシェアー率は5.7%と低下し、かなり少なくなってきました。
 EUは17.0%から9.5%とほぼ半減し、だいぶ少なくなりました。
 ロシアは1.1%から1.2%と横這いであり、殆ど影響力はありません。
 その他は3.3%から1.8%に下がっており、全く問題になりません。
 これから世界を相手にしている大企業は今後どのような国を相手にしなければならないのかというと一つは中国です。もう一つはアジアです。もちろん米国も依然として12.6%ありますので大事ですし、何より日米同盟の駆軸国です。
 日本の今後の取り組み方について、その程度の認識を持っておく必要があるのではないかというのがT氏の意見です。
(3)次はT政権の布陣から見える事というテーマですが、極めて常識的な話であり、新聞を良く読んで頂いている方であれば、直ぐにお分かりになる内容だと思います。
 Tが大統領になってから、国防長官はM、大統領補佐官はM、大統領首席補佐官はKを指名しましたが、何れも軍人上がりです。すなわち、現在のホワイトハウスは軍人が牛耳っているという事です。平昌オリンピック前の講演でしたので、多少事情は変わってきたかもしれませんが、布陣を見る限り北朝鮮問題は軍事的解決にシフトしていくことが濃厚になります。
 一方、財務長官にはM、商務長官はR、国家経済会議委員長はKが就任していますが、みんな小物との事です。財務長官のMに至っては、元ゴールドマンサックスのパートナー(平部長級)に過ぎません。それがいきなり財務長官をしている訳ですから、異常と言える状況なのかもしれません。何れにしても、個別の企業は努力しており、法人税も下がった事から経済も好調ですが、経済界を束ねる人物は非常に小物です。
 ところで、Tの方針を見ると、DEALという特徴的なキーワードがあります。DEALとは取引を意味するのですが、TはこのDEALを重要視しています。
 最近、DEALが発揮されたのは日本をはじめ韓国、中国、ベトナムを訪れ、ASEAN会議に出席した事がありましたが、その時の事ですT氏の表現だとTが7、8カ国から帰った時にホワイトハウスの人達に「俺はやったぜ」と言っていたそうです。「中国から米国への投資を23兆円勝ち取ったぜ」、「日本に軍事戦略機を高く売りつけたぜ」、「韓国は二国間協定が不公平なので脅かしてきたぜ」と話していたそうです。韓国とのFTAについては破棄だと言っています。韓国の関税の掛け方は前のO政権が行った事で、とんでもない。経済的に叩きのめすと言っています。
 T氏の支持率は相変わらず低迷しています。ただ、就任当時40%位で、その後、少し下がって低迷を続けていましたが、このところ、上がってきているそうです。上がってきた理由は、①法人税の引下げ(40%⇒20%)、②雇用の確保(70万人程度、増加)③株価の上昇(ダウ平均株価)が評価されたものと思います。
 アメリカは強いアメリカが好きです。アメリカ人は何でもアメリカが№1でなければ駄目なのです。平昌オリンピックにおいて、アメリカのメダル獲得数は5位とか6位であり、総個数もそれ程ではありません。ですから、アメリカ人は平昌オリンピックを面白く思っていません。何故なら、アメリカが№1でないからです。
 Tが軍事力を重視するのは強い米国を作ろうとしているからです。そのために支持率が上がったそうです。 しかし不支持率が52%で、支持率を上回っています。TPP離脱と温暖化のパリ協定を離脱している為です。前政権下で決まっていた事を簡単に撤回するといったやり方が一部の良識的な人から見ると、Tは何をやるか判らないし、米国の為にやっているか判らないという事で不支持率が高いのです。
 ところで、中国が何故、共産党政権であるにも関わらず、ここまで経済が発展したかというと、偏にTによるところが大きいのではないかと思います。
 何故、Tが偉いのかと言うと、M等が創り上げた共産主義では経済発展は見込めないと気がついた人だからです。面白いのが「黒い猫だろうと白い猫だろうと鼠を捕るネコはいい猫だ」という彼の主張です。経済を活性化させるには、資本主義が良いという事で、中国は経済を資本主義に移行することになりました。株式会社の設立が認められ、今日の経済基盤となっていくのです。30年も前の話です。もの凄い人だと思います。現在中国を作った人はMですが、経済的に発展させたのはTに他なりません。
政治的にはSはそれを踏襲して共産党という政権を維持しながら資本主義を進めると言っています。また汚職を全て一掃すると言っています。共産党の何百万人もいる政府の高官、共産党の幹部がポケットに入れていたのを「大きな虎もハエも一緒にたたけ」と反腐敗の号令を掛けた事が人気を博しました。
 中国は経済的には本当に凄いです。しかし政治的に中国共産党が凄いのは領土拡張の意欲です。周辺国が迷惑を被っていますが一番迷惑を被っているのが台湾です。
 昔は台湾が中国を代表していました。台湾が国連の加盟国で5大国の一つでした。それが、NとTが中国に行った事で、中国が中国を代表する国家にしました。台湾は1国2制度と言って、資本主義をやっていくことになりました。Sは台湾が憎くて仕方なく、いつかは台湾を併合してやろうと考えています。個別企業として、台湾には優秀な企業が多いのですが、中国に虐められている様です。台湾から物を買わないとか輸出を控えるとか色々な意地悪をしています。
 それと同じなのが香港です。香港はイギリスが統治していましたが、今から20年位前に中国に返還しました。返還後50年間は1国2制度で資本主義を認めると言って、中国はサインした訳ですが、契約なんて10年経ったら破棄して良いのだと言う始末です。
 香港は民主的な選挙を行いたいと考えていますが、立候補する為には委員会に届け出て、承認を得られなければ、立候補できないそうです。委員会は共産党で出来ているので、現実問題としては共産党員でないと立候補出来ない事になっています。結局は共産党の支持を受けた人だけが立候補しているので、香港は次第に中国に取り入れられてきています。かつて、雨傘運動と言って資本主義運動を行った事がありますが、逮捕されて懲役何十年という刑を受けたそうです。
 チベットでも何百万人という人間が殺害されているとの噂もあります。元々、中国は独立する時に何百万人も殺しています。中国の怖さというのは経済的には良いものの、領土拡張の意識が物凄く、手段を選ばないところがある事だと思います。
モルディブというインドから少し離れた小さい島国があるのですが、半分インド、半分中国寄りの政権でした。中国から金を借りて政権を運営していたそうですが、返せなくなってしまったので、最終的に領土の半分が中国の土地になってしまいそうな状況です。
 尖閣諸島についても同様の事が言えます。歴史的に日本の土地である事が明らかなのに、資源が周りに沢山あると見るや中国のものと主張しています。あの主張は絶対に変わらないと思います。彼らの生命線だからです。
 ご承知の様に、中国は南シナ海南部に位置する南沙諸島に軍事施設を作ってしまいました。国際裁判では違法という判決が出ていますが、飛行場や原子力関係の施設を作ってしまいました。正に力の支配です。
 T氏が言うには政治的には非常に怖い国だと理解しておかなければならないとの事です。
(4)仮想通貨:ビットコインについて、私は詳しくは把握していませんが、覚えておかなければならないのは世界のビットコインの40%は日本が保有しているという事です。ビットコインが崩壊すると一番打撃を被るのは日本で、日本発の経済ショックの可能性もあります。先般、NEMという仮想通貨が流出する事件がありましたが、結構企業筋も持っているそうです。みんなダンマリを決め込んでいますが、無くなってしまうと、何兆円ものお金が消えてしまう事になるそうです。
(5)T氏が学長を務めるT大学に留学生として来た学生に対し、日本の印象を尋ねたところ、女子学生曰く、「一つ前の時代に戻った気がする。」との事でした。いまだにお金を使っているが遅れていると感じたのではないかと思います。中国では現金決済は殆ど無く、カードやスマホで決済されている様です。これには、流石にT氏も「中国にだけは言われたくないな。」と言っていました。

 次回は集団的労使関係の続きから始めたいと思います。今日は中休み的な考え方で幅広い知識を持つ事も経営者として重要だと思いましたので、T氏の講演会の話を中心に話をさせて頂きました。

2018年2月 開催

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