千年企業研究会

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第74回

現代日本の労働課題について

■現代日本の労働課題について(日本の雇用制度の3大特徴について)

 昭和30年から平成元年にかけて、日本は高度経済成長を続けていました。平成元年には株価が史上最高価格:38,916円(12月29日「終り値」)をつけました。ところが、翌年初めに大暴落が起き、その後、長い低迷期に入り、2009年3月10日には株価終値の最安値が7,054円にまで落ちてしまった事は周知の通りです。(※因みに現在は2万2千円台まで回復しています。)
  経済発展の動向というのは労働問題だけ論議してもすむものではありません。しかしながら、経済発展を労働問題を中心として分析しようと試みるものに厚生経済学(Welfare economics)という学問があります。(※厚生経済学は、さまざまな経済環境において、最適な状態はなんであるかを規定し、実際の経済で運営されているメカニズムがその最適な状態を達成出来るか否か、達成出来ない時にはどのような政策が必要か、等を分析する経済学の一分野。)そこで、厚生経済学の観点から見て、何故日本は経済成長をしたのか?何故平成に入って、低成長に陥ったのか話をしたいと思います。
  日本の高度成長時代、アメリカの学者が日本の研究に来ました。研究者が分析した結果、労務的に見ると①終身雇用②年功序列③企業内組合が経済成長の三大要因だと考えるようになりました。
  では、平成に入って、低迷した原因は何かというと残念ながら判りません。その原因を分析する前に、昭和30年代以降のいわゆる戦後の昭和時代になぜ日本経済は発展したか大方の見方は前述した3大要因をあげています。そのうち、終身雇用と年功序列はセットで考える必要があります。当時の企業は、みんなが一緒に入社し、仲良く手を繋いで業務をする事で生産性が高まり、結果として、どんどん賃金が上がっていくというイメージだったと思います。終身雇用という制度が従業員の雇用を安定させ、満足度を高め、その結果、企業を成長させたという事になります。
  海外の学者は能力主義を全く考慮しない終身雇用や年功序列というものが日本を成長させたと考えている様ですが、実態はどうだったのか?すなわち終身雇用や年功序列の中に能力主義思想は皆無だったのか?私は昭和42年に銀行に入って、平成11年まで在籍しておりましたが、この間の経験談をお伝えして、皆様方には日本の高度成長の実態を感じ取って頂きたいと思います。

■日本の高度成長時代の実態について(日本の賃金制度について)
 昔はどこの企業にも「賃金表」というものがありました。何等級、何号の社員の場合、初任給2万円、1年経つと2万1000円といった内容が記されたものです。年数の経過と共に当然に給与が上がる事を定期昇給(略して「定昇」)と言います。もう一つ、ベースアップ(略して「ベア」)というものがあり、基本給が何%か上がる事をベアと言います。年功序列賃金体系の中で、毎年4月になると春闘といって、労働組合が基本給を幾らか上げてくれといった要求の場がありました。私の時代では基本給が上がらないと生活をしていく事が出来ない為、労働組合が春闘を始めたと聞いています。
 では、ここで代表的な給与体系の話をしようと思います。ご承知の様に賃金は大きく分けると定例給と定例外に分かれます。定例給は基本給と能力給と職位給、職能給、その他(諸手当)であり、定例外は賞与、残業手当が代表的なものになります。年功序列とか定期昇給と言うと、能力を反映しないというイメージなので、賃金表だけを見ると仲良く手を繋いでゴールしましょうという感覚になります。
 ところが職位給、職能給というものがあります。職位給は係長や課長になった時に職位に応じて支給されるものです。また職能給というのは能力で上がるもので殆どの企業では資格給といっていました。職位が上がることを昇進と言い、資格が上がることを昇格と言います。混同されている方もいらっしゃるかと思いますが、明確な違いがあります。日本の企業には例えば、係長になるには5年掛かりますとか、課長になるには10年掛かりますといった社内ルールかあります。また同じ課長でもポストの重要度や経験年数によって差が出ます。したがって、昇進は一律ではありません。昇格は理事、参事、副参事、参事補とか色々な呼称があります。何れにしても職位給と資格給の二つで給与が決定していく事になり、決して競争原理がなかったわけではありません。その中にこそ日本の企業の活力がありました。
 食べていく最低限のものとして、基本給とその他手当である属人的手当(家族手当や住宅手当等)があります。これは下支え用になります。それ以上は能力で稼ぎなさいという体系になります。更に賞与は正に能力給になります。その為、賞与も職位、資格に基づいて支給表が出来上がります。定期昇給、年功序列制度はみんなで仲良く平等社会というイメージがありますが、実際はどこでも職位給や資格給などの差がありました。現在、日本では実質的に65歳で定年になりますが、終身賃金では能力によって、かなりの格差になって表れてきます。簡単ですが、日本の年功序列賃金の中にも大いに能力主義が徹底していた事をご理解頂きたいと思います。
 アメリカについては次回お話ししたいと思いますが、賃金格差は億単位の差になってきます。下の人は時間給で全く上がらないシステムになっています。
 人によっては昭和の時代の年功序列制度のせいで日本が低迷期に入ったという人もいます。今日は日本の3大特徴である終身雇用や年功序列について実際はどうだったのかの話をしました。

■現代日本の労働課題について(ハンモックナンバーについて)
 最後に年功序列に関連して日本海軍のハンモックナンバーと日本の官僚制度について話をしたいと思います。日本海軍は海軍にも士官養成学校があり卒業すると海軍に入ります。卒業する時の成績順に番号が付けられます。これがハンモックナンバーです。1番で入隊するとずっと1番です。2番の人は1番の人を追い抜けません。番号によって序列が決まります。余談ですがこんなハンモックナンバーなんてものをやっていたからアメリカに勝てなかったと言っている人もいます。
 このハンモックナンバーは海軍だけかというと大企業も真似ていました。例えば東大を出て一番で卒業して入ったとするとハンモックナンバー1番になります。しかし民間だとハンモックナンバーは課長程度までである程度の職位になると実力主義になります。日本は民間企業がハンモックナンバーを壊したために成長したとも言えます。
 ハンモックナンバーが残ったところもあります。これが日本の官僚制度です。日本の官僚だと東大の法学部を1番で卒業して入った人間がハンモックナンバー1番になります。官僚同士では未だにハンモックナンバーの意識があります。今は実力主義社会という事ですが日本は未だにハンモックナンバー等に引きずられている部分もあると思います。
 日本の年功序列を理解するための一助になればと思います。

 次回はレジュメ(現代日本の労働課題)のアメリカの3大特徴の話をしたいと思います。

2018年6月 開催

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